闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「勿論だよ? 見てるだけでも幸せだけどね。あ、照れた?」

 「呆れてんの!」

 周囲の視線がまた二人に集まる。

 「あら? ジストじゃない?」

 店内に入ってきたばかりの女性がエナの声に気付いたのだろう。
 声を掛けてきた新手にエナはすぐさま顔を顰めたが、ジストが一瞬目を細め彼女以上の渋面になったのを見て首を傾げる。

 ――この男の雰囲気が変わった……?

 そこには榛色の瞳と同色の髪を綺麗に巻いて、胸を強調するように開けたシャツにタイトスカートを履いた泣き黒子が印象的な女性が立っていた。
 南の地方ではよく見かけるが、この地方では珍しい服装だ。持っている鞄も身に付けるアクセサリーも随分高価なものであろうが、それを何の違和感もなく調和させた美しい女性はエナをちらりと見てからジストに視線を戻した。

 「また引っ掛けたの? あなたにしては……随分珍しいタイプね」

 「リラ……。またとか言うなよ、エナちゃんに誤解されるでしょ?」

 誤解も何も、そもそも軽薄なナンパ野郎としか認識していない。明らかにエナを意識して発せられた言葉を右から左へと聞き流す。

 「真実そのものでしょ。ホント、目新しいものが好きなのはいいけど、毎日毎日よくやるわね」

 二人の間に流れる落ち着いた空気は親密さを浮き彫りにしていたのだが、その会話の内容は恋人と呼ぶには余りにも淡白だ。

 「運命の人を探し続けてるんだってば。んで、やぁっと見つけたんだから、邪魔しないでくれる?」

 ジストは手をひらひら振って、行った行った、とあしらった。

 「はいはい。わかったわよ」

 リラと呼ばれた女は身を翻そうとして、ふと動きを止めた。

 「あ、そうだわ、可愛らしいお譲さん、一つ忠告しといてあげる」

 そう言ってエナの耳元で囁いた。
 貴女風情が手に負える男じゃないわよ、と。
 エナがリラを見ると、彼女は優位に立っていることを強調するように婉然と微笑みかけた。

 「こんな男に興味無いから」

 こう答えれば、リラは穏やかな口調で更に笑みを深くした。

 「そう。懸命な判断だと思うわ」

 それは、明らかに小者を相手にしていると言わんばかりの返答。
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