闇夜の略奪者 The Best BondS-1
「ジス……これ……?」
母の形見と似たような形状の紅の水晶。それを手にした途端、ふと体が軽くなる。痛みが和らぎ、浅かった呼吸が深いものへと変わる。
「ジストさんにとっては憎しみの象徴でしかないけど、どうやら癒しの力があるらしくてね。少しは楽になると思うよ」
「癒しの……力?」
俄かには信じ難い単語にエナはその水晶を見下ろした。そして彼の目や髪と同じ色の、其れをそっと胸に押し当てる。目が眩む程に深く鮮やかな紅の闇がまるで赤子を包み込むように広がる奇妙な感覚。
確かに楽になった身体とその感覚を体感してしまっては、水晶の持つ力云々の話を否定することは出来なかった。
「元気になったらエナちゃんが持ってる水晶のこと、教えてね?」
教えるもなにも母から譲り受けただけでしかないのだが、エナが何かを言う前に足元に落ちていたジストの影が伸びる。彼が立ち上がったのだとわかり、エナはまだ虚ろな目でその姿を追った。
「抗血清、探してくるから。エナちゃんは大人しく、そこで待ってなさい。いいね?」
あやすような口調で片目を瞑ってみせたジストは暢気な足取りでエナの元から離れていく。
「憎しみの、象徴……」
呟いて、エナは手に収まる水晶をもう一度強く握り締めた。
――一方。
ゼルは軽く屈伸をして体の筋を伸ばした後、エディの存在を確かめるように何度か手の上で遊ばせた。傭兵をしていた時にエディに出会ってから約三年。手に馴染んだその感覚にゼルは笑みを浮かべた。
「さて、じゃあ……」
蒼く輝く剣を真上に投げ上げる。
其れは空中でくるくると弧を描き、周囲に散光を走らせる。
「オレが、相手だ……!」
孤を描く剣の柄が吸い付くようにゼルの義手に納まった、その刹那。
重心を下げ、踏み込む。床を蹴る音が大きく鳴った。
もう一歩踏み出したとき、死神の鎌が動いた。
上から跳びかかる。受け止められるキン、という乾いた音。そこにゼルは手ごたえを感じる。
昨夜とは全く違う。
自身の手そのもののようにエディは動いてくれる。床に降り立ち、続け様に回転をかけて打ち込む。弾かれた力そのままに逆回転、下から上、そしてもう一度上から下へ。
母の形見と似たような形状の紅の水晶。それを手にした途端、ふと体が軽くなる。痛みが和らぎ、浅かった呼吸が深いものへと変わる。
「ジストさんにとっては憎しみの象徴でしかないけど、どうやら癒しの力があるらしくてね。少しは楽になると思うよ」
「癒しの……力?」
俄かには信じ難い単語にエナはその水晶を見下ろした。そして彼の目や髪と同じ色の、其れをそっと胸に押し当てる。目が眩む程に深く鮮やかな紅の闇がまるで赤子を包み込むように広がる奇妙な感覚。
確かに楽になった身体とその感覚を体感してしまっては、水晶の持つ力云々の話を否定することは出来なかった。
「元気になったらエナちゃんが持ってる水晶のこと、教えてね?」
教えるもなにも母から譲り受けただけでしかないのだが、エナが何かを言う前に足元に落ちていたジストの影が伸びる。彼が立ち上がったのだとわかり、エナはまだ虚ろな目でその姿を追った。
「抗血清、探してくるから。エナちゃんは大人しく、そこで待ってなさい。いいね?」
あやすような口調で片目を瞑ってみせたジストは暢気な足取りでエナの元から離れていく。
「憎しみの、象徴……」
呟いて、エナは手に収まる水晶をもう一度強く握り締めた。
――一方。
ゼルは軽く屈伸をして体の筋を伸ばした後、エディの存在を確かめるように何度か手の上で遊ばせた。傭兵をしていた時にエディに出会ってから約三年。手に馴染んだその感覚にゼルは笑みを浮かべた。
「さて、じゃあ……」
蒼く輝く剣を真上に投げ上げる。
其れは空中でくるくると弧を描き、周囲に散光を走らせる。
「オレが、相手だ……!」
孤を描く剣の柄が吸い付くようにゼルの義手に納まった、その刹那。
重心を下げ、踏み込む。床を蹴る音が大きく鳴った。
もう一歩踏み出したとき、死神の鎌が動いた。
上から跳びかかる。受け止められるキン、という乾いた音。そこにゼルは手ごたえを感じる。
昨夜とは全く違う。
自身の手そのもののようにエディは動いてくれる。床に降り立ち、続け様に回転をかけて打ち込む。弾かれた力そのままに逆回転、下から上、そしてもう一度上から下へ。