闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 人目を引く堂々とした歩き方で店から姿を消すのを見送ったあと、エナはジストに向き直り呆れたような口調で吐き捨てた。

 「随分性格の良い友達をお持ちね。類友?」

 ははは、と誤魔化すように笑った後、悪い奴じゃないんだけどね、とリラをフォローするが、それが本音なのか類友と言われた為の自己弁護なのかは定かでない。

 「あんた、一体何者なの」

 まじまじと検分するような目を向けたエナの問いにジストはきょとんとした顔を作った。
 そう、作ったのだ。

 「ジストさん? 男前で健全な青年だけど?」

 「誤魔化すな。あまりにも、有名過ぎる」

 この店だけでも老若男女問わず視線を向けジストの名を小声で囁きあう人が多いのは、勿論外見も大きく関係しているのであろうが、そればかりだとは到底思えない。
 だが、ジストはそらっとぼけた様子で首を捻る。

 「えー? そうかな? うーん、なんでだろ。あ、仕事柄、かな?」

 「仕事?」

 「うん、情報屋なの。何処の店でバイトを募集してる、とか、明日の天気は、とか。女の子限定で、彼氏の浮気調査したり、ストーカー野郎の個人情報教えてあげたりもするよ。困ったことがあればいつでも言ってね?」

 ジストは言葉を切って、微笑んだ。

 「この町のことは何でも知ってるから」

 エナはその言葉に眉を動かした。

 「何でも…?」

 「そう、何でも」

 きっぱりと言い切るジストにエナは何度か瞬きをした。
 人の目を見つめたまま考え込む癖があるエナはそのまま目を細めてみたり、口をへの字に曲げてみたりしてジストを困惑させた。

 「そんなに見つめられたらジストさん、穴空いちゃうよ? うんでも、もっと見て。綺麗でしょ?」

 「……」

 無視ではない、完璧な無反応。
 ジストがエナの眼前で手をひらひらと振るが、それも空振り。

 「どうしたの、エナちゃん?」

 「……――ん? 何?」

 名前を呼ばれて、エナはようやく現実へと立ち戻った。

 「エナちゃん、聞きたいことでもあるみたいだね。いいよ、言ってみて」

 その申し出にエナは目を閉じ、喉を上下させた。
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