闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 茜色の記憶の中の小さな約束。
 それを果たすまで死にはしない。戦いに敗れ、剣士として死んでいくのならば許せもしよう。だが剣に喰われるなど、末代までの恥。
 そして今はそれに気付かせてくれた少女を――背後を気にしながら戦ってくれた少女の命を救いたいと思う。
 夢を、命を生かしてくれたエナを守りたいと思う。
 「エナが、オレを【活】かしたンだ。オレはそれに応えなきゃなんねェ。それが……筋ってもんだろ!?」
 渾身の力で剣を一閃させた。届くはずもないその距離に、しかし死神は横に避ける。
 死神の体半分横を通りすぎた剣圧が支柱を抉ったのを見てあがる声は感嘆。
 「これが……斯(カ)くも有名なエディの力か……!」
 「オレの、力だっ!」
 水を得た魚の如く、ゼルは瞳を爛々と燃やして跳躍する。
 殺気を含まぬ、純粋な闘志をぶつける。
 夢を目指し続けることで得た力。それは紛れもなく己の力。心の、力。
 蒼い光と漆黒の闇が交差する。
 その衝撃にゼルの背中から、死神の腿から、紅が飛散する。
 「迷いも恐れも無い眼(マナコ)だ」
 激しい打ち合いの合間、死神がそう呟いた。
 「毒に恐怖せぬのは青き故の無謀さか」
 手首を返し振り上げる剣は受け止められる。巻き起こる風が死神の長い髪を扇状に広げた。
 「剣士に必要なンは、ウデだけじゃねェんだよ!」
 跳び退いた瞬間を狙って来る一撃を、空中で体を捻ることで躱す。
 着地まで追ってくる鎌の切っ先を剣の装飾の部分で受け止め、弾き返す。
 お互いに間合いを計る――目が合う。
 死神の口元が笑みに歪んだ。
 「傭兵あがりの剣士崩れよ。お前は何故剣士たる強さを求める」
手首ごと剣をくるりと回して構え直したゼルもまた、笑う。
 「約束したから……ってェだけでもねェか」
 約束がより強く夢を求める理由になった。だが、そもそも剣士になると決めた理由は他にある。夢を自覚した日のことはもう覚えていないけれど。
 じりじりとお互いが足を擦り、ゆっくりと円を描くように回りながら隙を探る。
 「ふん、世界一とかいう約定か。前回の剣技大会では恐れを生(ナ)し棄権したようだが?」
 お互いに隙が無いのならば、それを作ればいい。
 会話の中で揺さぶりを掛け合う。


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