闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「なんだ、オレのこと随分知ってる風じゃねェか」
 だが、生きてきた時間の差は、こういう時に露呈してしまうもので。
 「無論。だからわざわざ故郷まで出向いたのではないか」
 「な、に……!?」
 心が乱れる。その隙を死神が見逃す筈もない。鎌がゼルの首を狙う。
 剣でそれを受ける。目のすぐ前には妖しくも暗い笑み。
 じゃらりと死神の首飾りが音をたてる。
 「斯様(カヨウ)な辺境の村、偶然着くわけがなかろう?」
 低く囁かれたそれを鎌と共に押し戻す。そしてまた、離れる。だが心は酷く乱れたまま。
 「アンタの目的は……オレか……?」
 愕然と口にする。問い、ではなかった。確認でもない。何が真実かくらい聞かなくてもわかる。わかってしまう。
 「強さとは孤独なものだ。そうは思わぬか」
 死神の放つ言葉もまた、問いではない。
 「得た力と名声故に大切な者の魂が刈り取られる。……皮肉な話だ」
 くつりと喉をを鳴らした死神の声音が微かに変わった気がした。
 焦がれ悦に入るような、ゆったりとした残虐性。
 「孤独を得たお前は今、真の強さを手に入れたのだ」
 その瞬間、全身が粟立つ。恐怖ではない。背中を伝うのは氷のように冷えた汗と怒りの血潮。
 「そして私は強いお前と戦うことを夢想していた」
 「……!!」
 そのような手前勝手な強さの定義の為に村は潰されたのか。
 そのような理由の為に家族は殺されたのか。
 ぞわぞわと這い出す感情は先ほども覚えたもの。
 ――許せねェ!
 怒りが殺意となって心中を過ぎる。
 その刹那、感覚などないはずの義手に電流のようなものが走った。
 「――っ!」
 電流のような衝撃はそのまま腕を抜け、脳へと到達する。脳の中で蒼い光が弾けた。
 エディが牙を剥いた。そう思ったゼルは一先ず剣を鞘に納めようとした。だがしかし。
 「く、そ……!!」
 腕が、動かない。ぴくりとも。
 もう片方の手で何とか動かそうとするが、結果は同じ。
 明らかに異常なその変化に死神の嗤う気配――と共に風を斬る音。
 腕に力を加えたまま咄嗟に後ろに飛び退く。
 「どうだ、やはり憎かろう?」
 振り切った鎌の後ろで口元を弧に歪めた死神の目は侮蔑と愉悦に満ちていた。
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