闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「オレは、剣を手にした時から人を殺す覚悟を持ってる」
 そう言って剣士は義手を見つめ、拳を作った。
 「だからこそ、自分の信念に問うンだ」
 顔をあげた剣士は、きっぱりと。
 「オレにアンタは殺せねェ。許せねェからこそ、ぜってェに、な」
 其の言葉に死神は狼狽する自身の在り様を見た。
 「笑止。私は生きる限り、殺戮を繰り返すのだ。それでも構わぬと言うか」
 剣士は束の間、苦悩顕わに顔を歪めた。
 「……今ここでアンタを殺せば、オレはアンタがトロルにしたことを許しちまったことになンだろ」
 虚しさと悲しさとそして決意がこめられた静かだが強い声。
 「オレが勝ったからってアンタを殺したら、それはアンタがトロルにしたことと同じになっちまう。だから、殺せねェ」
 殺戮の中で繰り返される憎しみの連鎖を、剣士はいとも容易く断ち切った。同時に死神が祈り続けた願いも粉々に砕けて散る。
 「お前はその信念とやらの為に未来に流れる血を見過ごすと、そういうのだな」
 自嘲気味に笑む。これ以上何を言おうとも剣士が自身の心臓を貫くことはないのだろうと感じたからだ。
 ただひたすらに剣士で在ろうとする姿に痛みを覚えた死神は、剣士の後ろで腕を組んでいたもう一人の男に視線を移した。
 「そこの男。お前も同じか?」
 男はいきなり当たった白羽の矢にきょとんとした表情を作った。
 「なに? 俺に言ってるの?」
 自身を指差して問い返す男のパンツの袖を座り込んだままの少女が掴む。
 「ジスト……」
 懸念を浮かべるその声に男はわかってるよと答え、こちらを見たかと思うと艶やかに笑った。
 「殺さないよ。エナちゃんとの約束だもん」
 それにね、と青年は続けた。にこやかな笑顔のままで。
 「エナちゃん以外の他人が何人死のうがジストさんには関係ないもの」
 それは、常人には理解し難い衝撃的な言葉。剣士がさっと顔色を変えた。
 「おいアンタ、そんな言い方……!」
 エディの柄に手を掛けた青年の様子にも動じることなく、筆舌に尽くしがたい美貌を持つ青年は飄々とした顔で答える。

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