闇夜の略奪者 The Best BondS-1
「俺に殺す気が無い以上、こいつがこの先誰を殺しても文句は言えない。こいつを生かすってのは、そういう事」
だけどジストさん、興味ないもん。と男は子供染みた仕草で心底つまらなさそうに唇を尖らせた。
「では、いずれ私がその娘の命を奪うとしても、お前も今此処で私を生かすか」
興味の対象になっている筈の少女を引き合いに出して問えば、男は肩を竦めて首を傾げた。
「殺さないってば、エナちゃんがそう望む限りはね。次にエナちゃんの命を狙ったら、そのときは容赦しないけどね」
無邪気と表現するに相応しい笑顔は、毒々しい何かを孕んで死神の目に映る。
「……ならば、ここに宣言しよう。私はその娘の命を狩りに行くと」
その言葉に紅の男は大仰に溜め息を吐いた。身振り手振りで「やれやれ」と言いながら優雅な足取りで剣士のすぐ隣までやってくる。表情は笑みを浮かべたまま。だが、目は笑っていない。
形の綺麗な手が伸びてきたかと思うと、それは死神の長い黒髪を遠慮会釈なく鷲掴んだ。
「……あのね?」
唇が触れそうな距離で男は再度、にっこりと笑った。
痛みに顔を歪めることもなく男を見上げていた死神に、妖艶な囁きが降る。
「なぁにをそんなに死にたがってるのかは知らないし、興味も無いが」
浮かべていた爽やかささえ感じさせる笑顔が瞬時にして形(ナリ)を潜める。
「そんなに死にたきゃ、てめぇで死ね」
刺すような声音と射るような眼光に、ぞくり、と背筋が震えた。思考を超えて全身が命の危険を訴えたのだ。
この男もまた、生殺与奪の権利を手にしてきたタイプの人間だと死神は肌で感じた。
剣士は自身のことを天才肌では無いと言っていたが、剣士は間違いなく天才だ。充分な資質に加え、最大限の努力が出来る人間を天才と呼ばずして何と呼ぶ。
だが紅の男はおそらく、その上を行く。人並みの努力で資質に胡坐を繋(カ)き頂点に君臨出来る男。そのような人間がトルーアにたった一人だけ存在するという話を聞いたことは無かったか。姿かたちは知らなくとも、その圧倒的な強さが物語る事実。
だけどジストさん、興味ないもん。と男は子供染みた仕草で心底つまらなさそうに唇を尖らせた。
「では、いずれ私がその娘の命を奪うとしても、お前も今此処で私を生かすか」
興味の対象になっている筈の少女を引き合いに出して問えば、男は肩を竦めて首を傾げた。
「殺さないってば、エナちゃんがそう望む限りはね。次にエナちゃんの命を狙ったら、そのときは容赦しないけどね」
無邪気と表現するに相応しい笑顔は、毒々しい何かを孕んで死神の目に映る。
「……ならば、ここに宣言しよう。私はその娘の命を狩りに行くと」
その言葉に紅の男は大仰に溜め息を吐いた。身振り手振りで「やれやれ」と言いながら優雅な足取りで剣士のすぐ隣までやってくる。表情は笑みを浮かべたまま。だが、目は笑っていない。
形の綺麗な手が伸びてきたかと思うと、それは死神の長い黒髪を遠慮会釈なく鷲掴んだ。
「……あのね?」
唇が触れそうな距離で男は再度、にっこりと笑った。
痛みに顔を歪めることもなく男を見上げていた死神に、妖艶な囁きが降る。
「なぁにをそんなに死にたがってるのかは知らないし、興味も無いが」
浮かべていた爽やかささえ感じさせる笑顔が瞬時にして形(ナリ)を潜める。
「そんなに死にたきゃ、てめぇで死ね」
刺すような声音と射るような眼光に、ぞくり、と背筋が震えた。思考を超えて全身が命の危険を訴えたのだ。
この男もまた、生殺与奪の権利を手にしてきたタイプの人間だと死神は肌で感じた。
剣士は自身のことを天才肌では無いと言っていたが、剣士は間違いなく天才だ。充分な資質に加え、最大限の努力が出来る人間を天才と呼ばずして何と呼ぶ。
だが紅の男はおそらく、その上を行く。人並みの努力で資質に胡坐を繋(カ)き頂点に君臨出来る男。そのような人間がトルーアにたった一人だけ存在するという話を聞いたことは無かったか。姿かたちは知らなくとも、その圧倒的な強さが物語る事実。