闇夜の略奪者 The Best BondS-1
 「弱肉強食。それが自然淘汰の理とあらば、私は存分に生きた」
 生きすぎたといってもいい。血生臭い道の中での十余年は長すぎた。
 「だから、“死にたい”って?」
 少女はゆっくりと言葉を切って告げる。
 「それは、選んでない。あんたは何も、選んでない」
 選ぶとは、どういうことだ。
 弱肉強食の中で生き抜いてきた。敗北したときが死ぬときだと知っていながらこの道を選び続けてきたのは自身で、そして今、敗北を喫したことでその宿命を受け入れるつもりでいる。
 これを選んでいないというのならば、選ぶとは、一体何だ。
 「感情押し殺して、自分を型に縛りつけてる。ただそれだけ」
 まるで心の内を読んだかのようなタイミングで少女は口にした。
 反発が心に芽吹く。
 「そのようなことは……」
 「なら、なんで今まで生きてきたの」
 そのようなことは無い、と言い切る前に少女は言葉を被せた。
 自身の微かに開いたままの口から音が漏れることはなかった――少女の台詞に息を呑んでしまって。
 「死を選ぶなら、今までだって出来たはずだ」
 少女は片手を床につき、ゆっくりと立ち上がった。
 それを目で追ってしまったのは何故だろう。あれほど、逸らしたいと思っていたのに。
 「でもあんたは、生きてきたんじゃないか」
 瞼が持ち上がり顕わになる青緑と緑青の双眸が湛えていたのは、先ほど無垢だと感じたことが嘘のような感情の炎。燃えるのは命そのもの。
 その姿に恐れを覚える。身を包む空気が相容れないものと知るからこそ感じる重圧と引力。
 「本当はそれ、選んでたんでしょ」
 少女の足が俄かにふらつく。
 だというのに揺らがない声、瞳、その存在。
 「逃げずに、選んで。変わる苦しみは――生みの苦しみは……辛いかもしれないけど」
 少女は言葉を切り、大きく息を吸い込んだ。
 「受け止めて……変われ」
 太陽の光を吸い込むような淡い髪を揺らして足を踏み出す少女に、死神は反射的に顎を引いていた。
 後退りしたがる体を抑えることは出来たが、気持ちの上ではとっくに逃げている。けれど逃れることは出来ない。追いかけてくる、迫ってくる――光。
 「過去に何があったのか、何を思ったのか、あたしは知らない。だけど……」
 少女は一度、優しく微笑んだ。
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