桜ノ籠 -サクラノカゴ-
「……あいつはどうした?別れたのか?」
「彼は、そんなんじゃない!つき合ってなんかーー」
沙智は思わず、
大きな声とともに伏せていた顔を上げた。
「松永さん?どうしたの?」
近くにいた他の店員に名を呼ばれ、
沙智は、
「いえ、すみません。なんでもないんです」
そう答え、
店員と周りの客にいつもの笑顔を向けた。
だが、カウンタ―の上の青磁の掌を離す事はない。
周りの興味がそれた事を確認すると、
沙智は再び青磁に視線を移す。
「私を、やっぱり許せない?……青磁が苦しんでる時、裏切ったから…」
「あの時は、な」
「でも、私もつらかった。青磁がつらい事をつらいと伝えてくれなくて……。
あの時、ちゃんと言ってくれたらーー」
「一年前、俺が生徒を亡くしてつらいと伝えていたら、何かが変わったのか?」
「少なくても、こんな事には……」
「そうかな?……俺もお前も、つらい事をつらいと伝え合えない関係になっていたことが、
今に繋がっているんじゃないのか?」
ぴく、
と、重ねた沙智の掌が反応する。