金魚姫
ビーチボールはポカリをあけて一息に飲み干した。


「もう少し泳いできます。」


そう言い残しプールサイドの階段をソロリと降りて明るい水面に体を沈めた。


ビーチボールの体もほおずき色に染まった。

手足をバタバタ振り回しながら顔を水中から上げたり引っ込めたりして、口をパクパクさせて息継ぎをしていた。


プールサイドではヨータがその姿を見つめて、懐かしいものを思い出していた。

小学生の時、夏祭りの出店ですくった朱色の出目金を。


他の金魚はめだかのようにひょろりとしていたが、そいつだけはまあるく太り、林檎のようで目立っていた。

600円注ぎ込んで救出して家に持ち帰った。


翌日には大きな金魚鉢を用意して出目金を放した。


いつもは鉢の底でゆらりと流されているが、食事の時間になると水面付近に上がってきて口をパクパクして餌を欲しがった。


それが間抜けだが、とてもいとおしく感じたものだ。

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