金魚姫
「昨日はゴメンナサイ‥。」


先に誤ったのはビーチボールだった。


「急に帰っちゃって‥
 心配してくれたのにね。あなたも、ワンちゃんも」

ビーチボールの小さな手がムサシのフサフサの頭を撫でた。


ヨータは黙って首を横に振った。


「クラスで私一人泳げないの。
水泳の時みんなにからかわれちゃう。
“マメダヌキが溺れてる”
“沈没船だー”って
昨日も笑われるんじゃないかとおもって‥。」


ビーチボールの瞳に涙が溜まった。


「だからここで練習を?」

「うん。いとこがこの学校に通ってるの。
ここなら私の家から5駅離れてるし、みんなに見つからないで練習できるから‥。」


さっきまで練習していたのか、二十日大根のようなずんぐりした足には水滴がついている。


ビーチボールを励ましたい、元気づけたい、と思ったが、なかなかぴったりの言葉が思い浮かばず、ただ、彼女の右隣にムサシと同じように座っていた。


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