雨音色
明らかに狼狽する口調。


聞かれていたのか・・・、と少し恥ずかしい気持ちになった。


でも、多分、きっと。


「あの、・・・お母様」


「あら、やだ、お母様なんて、こそばゆいわ。今、客室に布団をしいておきますね。あ、そうだ」


再び襖から、母が戻ってきて顔をのぞかせる。


「幸花さんにお茶を差し上げて」


「あ、そうだね」


壮介は立ち上がり、比較的使われていない湯呑を食器棚から取り出した。


その時だった。


「あの、お母様!」


突然部屋に幸花が入ってきて、壮介の前に立つ。


彼女は顔を横に振り、茶を汲まないように、と言うような素振りを見せた。


そして、母の方に向きなおった。


「あの、ぶしつけで申し訳ありません。突然ですが、お願いを聞いていただけませんか」


急に幸花は母に向かって頭を深く下げた。


何の事か、壮介は突然の幸花の行動にただ驚くばかりだった。


「私を・・・このまま、壮介さんの妻として扱ってはいただけませんか?」
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