雨音色
「・・・私はね」


少しの沈黙の後、母が大きく息を吸い込んだ。


「壮介にも、幸花さんにも、幸せになって欲しい」


吸い込んだ息とともに、母は、そう答えた。


母の顔がほほ笑んでいた。


「・・・じゃあっ・・・!」


「でもね、少なくともその為には、


誰からも祝福される結婚であるべきだと思うのよ」


さえぎるかのように、早口で紡がれた言葉は、彼女の期待とは違った。


幸花は、口から出かかった言葉を飲み込むように口を噤む。


誰からも祝福される結婚。


それができないと分かったから、こんな事態になったというのに。


うつむいてしまった彼女に、母が近付いた。


「私はね、誰かの不幸の上に、幸せは成り立たないと考えているの。


仮に一時的には幸せでも、きっといつか、それは地盤から崩れ落ちるわ」


母の言葉に続くように、幸花がぽつり、ぽつりと言葉を紡ぐ。


何かを我慢しているのか、その声はさっきと違って、小さく抑え気味だった。


「・・・私・・・、壮介さん以外の人と結婚しても、


・・・幸せになれないと思うの・・・です。


・・・だから・・・」


彼女が一生独身であることは、有り得ない。


今でも見合いの話は絶えることなく続き、


山内家繁栄の為にも、幸花が結婚しない運命は、有り得なかった。


「山内の家を捨てるか、・・・壮介さんとの未来を捨てるか・・・。


私には、・・・答えは明白でした・・・」
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