雨音色
不意に、彼の胸が熱くなった。


家を捨てるということは、彼女の過去を全て捨てるということ。


そこまで彼女にさせてまで、自分は――。


「・・・幸花さん、こっち向いて」


母が笑顔でそう、言った。


「未だ、何も始まっていないわ」


「「え?」」


壮介も思わず声をあげていた。


「貴女は選択肢を2つしかあげなかった。


でも、本当にそれしかないの?他に手段はないの?」


しかし。


「・・・父を説得など・・・」


部屋に籠り続けたのは、彼女なりに考えた最も有効であろう対抗手段であった。


しかし、父はそれですらも、彼女の部屋を訪れることすらなかった。


「未だ可能性はあるわ。・・・ね、壮介」


突然母が、彼の方を向いた。


「え、あ、・・・は、はい」


急な振りに、彼は口ごもってしまった。


「良い?最後まで諦めない。駆け落ちは、本当の最後の最後、


これ以上に手段がないと思う時まで取っておきなさい」


母はそう言って、にっこりと幸花に笑いかけた。


悲しみに沈んだ彼女の顔は、その涙を零しながらも、


それは笑顔へと変わっていた。

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