雨音色
彼はバツが悪そうな顔をした。


「・・・普通、こういうのは、男の僕から言うものなのでしょう?


それなのに、僕は・・・」


幸花は少し不思議そうな顔をして、そして壮介に近づいた。


そして、その耳元で囁く。


「・・・私は、壮介さんに何も言ってないですよ」


「え?」


頬を少し赤らめて、彼女が彼を見つめる。


彼は願わずにはいられない。


母が戻ってくるのが、出来る限り遅くあることを。


「・・・私、ちゃんと待っていますよ。・・・その、・・・言葉を」


もう彼の我慢は限界にあった。


次の瞬間、彼女の体は彼の腕の中に収まっていた。


ぎゅう、と感じる、心地よい窮屈感。


「僕、幸花さんを愛しています。だから、結婚してください」


それは、頭が絞り出した言葉ではなかった。


心に素直に従った、彼の気持ちそのものであった。


「私も、壮介さんを愛しています。結婚してください」


幸花の手が彼の背中に回る。


温かいぬくもりが、全身を包んでいた。


廊下では、昔の思い出に浸りながら、母は居間に戻る時機を探っていた。
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