雨音色
玄関を出て、道路へとつながる石畳の階段を下りる。


「・・・歩いていきますが・・・大丈夫ですか?」


恐る恐る尋ねる藤木に、幸花は、少しはにかんで答えた。


「えぇ。私を誰だと思っているのですか?」


「・・・そうでしたね」


そんな会話を交わしながら、


草で鬱蒼と茂る周りをかいくぐり、一番下まで降りると、そこには。


「・・・先生・・・」


見慣れた黒く光る固まり。


目の前には、帽子を目深に被る、初老の紳士が一人。


「藤木君、幸花お嬢様。お乗りなさい」


運転手が急いで降りて、後部座席のドアを開ける。


幸花は慣れたように、会釈をしてそのまま乗り込んでいく。


「あの。・・・先生」


「ここからお屋敷まで歩かせていたら、日が暮れてしまうだろう」


ぶっきらぼうに吐き捨てて、牧は再び助手席へと戻った。


壮介は胸の奥に温かい何かを感じていた。


「・・・そうすべきだと、・・・思ってくれたのですね」


壮介はただ静かにそう呟いて、運転手が待つ後部座席へと乗り込んだ。
< 127 / 183 >

この作品をシェア

pagetop