雨音色
ぼーん、ぼーん、と屋敷の食堂に置かれた、大時計が夜の12時を告げる。


その時間になると、タマは必ず台所で1杯の水を汲み、


ある所に持って行くのが仕事だった。


「失礼します」


「入れ」


ゆっくりとドアを開ける。


その部屋の主は、今日は窓から夜空を見上げていた。


「・・・お水でございます」


「テーブルの上に置いといてくれ」


山内家の当主は、振り向きもせず、そう言い捨てた。


いつもであれば、水を置いて、そのまま彼女は部屋を出る。


例え山内家と深くかかわっていたとしても、あくまで召使いだ。


仕事がないのにもかかわらず、長居することは、


召使いとしての自覚が欠けている。


タマは、他の使用人たちに、いつもそう言い聞かせていた。















しかし、今夜は、違っていた。










「・・・旦那様」


タマの、いつも以上に低く、そして落ち着いた声が、部屋に響き渡る。


「・・・何だ」


彼は、相変わらず窓の外を眺めたままだった。


タマが、喉を鳴らす。


覚悟を決める時だった。


「・・・どうされるおつもりですか?」


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