雨音色
「・・・旦那様」
すっかり秋の季節を迎えた頃、
牧の家に、二通の手紙が届いた。
「壮介君からです」
妻に差し出された封筒には、見なれた彼の、美しい流れ文字が書かれていた。
Professor Maki Souichiro
律儀にも「Professor」と書く彼の細かさに、彼は少しだけ嬉しくなった。
「どれどれ、向こうで元気にやっているのかね」
しかし、彼は妻に自分の嬉しそうにする顔が見られるのが恥ずかしいのか、
わざとしかめつらをしながら、封をハサミで切り、中の手紙を取り出した。
「牧先生
秋の夜長、虫の音が心地よい季節となりましたが、お元気でいらっしゃいますか。
独逸の秋は、相変わらず美しく、日本の秋の情景を懐かしむ暇すら与えてくれません。
今、僕は伯林大学で、日々精進しております。
日本では触れられなかった先端の刑法議論に触れることが出来、
その上、
先生の尽力があってこそ、幸花さんと過ごすことができる毎日を送ることが出来、
僕は今、自分が世界一の幸せ者であると断言できます。
牧先生。
長い船旅で少し考えたのですが、
今、僕は、亡くなった父の気持ちが分かる気がします。
全てを犠牲にしてまでも大切にしたかった人を手に入れることができること。
それは、恐らく奇跡に近いのかもしれません。
だからこそ、それをもたらしてくれた牧先生には、感謝してもしきれません。