雨音色
「君だったら、そのまま結婚させるか?」


愚問である。


答えなど、明白過ぎる。


それも、『あの人』と結婚していたこの人であれば、尚更だ。


そう、彼女は思った。


「身分が違う者同士の結婚は、私と妻で十分だ。

あの彼も苦労するに決まっている」


沈黙だけが、その場を漂っていた。


蘇り出す記憶。


バラバラになっていた記憶の欠片が、


その原型を取り戻そうとする。


「旦那様は、奥様と結婚されたことを、後悔されていらっしゃるのですか?」


しばらくして、彼が口を開いた。


「・・・彼女にはたくさん辛い思いをさせた。

彼女をこんな金に汚れた世界に連れてきてしまい、寿命を縮ませたのは私の責任だ。

君も知っているだろう、彼女の苦労を」
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