雨音色
雨の強さに打たれながら。
「それでは野村先生、詳細は後ほど」


牧がかぶっていた帽子を右手で軽く持ち上げた。


「えぇ。後日研究室の方にお伺いします」


野村はそう言うと、同じように帽子を少し持ち上げて、車内へと乗り込んだ。


白い煙が、その場に一瞬立ち込める。


「雲行きが良くないな。一雨振るかもしれん」


車が過ぎ去る様を見送りながら、


薄暗い空を見上げて、隣にいた牧は呟いた。


「藤木君、乗っていくだろう?」


講堂を出たところに、大きな黒い車が彼の前に止まった。


「申し訳ありません。今日は寄る所がありますので」


時は午後5時を回っていた。


他の学者達も、それぞれ自らの帰途へ着き始めている。


「・・・そうか。それじゃあ、また明日」


牧はそう言うと、そのまま車に乗り込んで行った。


彼は感じていた。


その背中に掲げられた優しさを。


「はい。また明日」


ばたん、とドアが閉まると同時に、白い煙を吐き出して車は去っていった。


彼はその場で、その姿が見えなくなるまで、佇んでいた。
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