雨音色
藤木はひたすら道を歩いていた。


寄る所など、本当は何処にも無くて。


ただ、歩きたい。


ふらふらと、彷徨う子羊のように。


それが牧の申し出を断った理由だった。


ひたすらに、道が続く限り、脚の動きを続けていく。


自分が何処にいるのかさえもよく分からない。


何故こんな気持ちになるのか、自分自身に問い掛けてみても、


明確な答えは導き出せない。


だからといって、歩けば答えが出るはずも無くて。


ただ、彼は少し休みたかった。


ここのところ忙しすぎた頭を、少しの間だけでも休ませたかった。


モヤモヤした、得体の知れない何かが心の片隅にこびり付いている。


そこまではよく分かっているのだけれども。


同時に、どこかそれが滑稽に感じられた。


自分で自分が、よく分かっていないなんて。


皮肉な笑いが、溜息に変わっていった。
< 84 / 183 >

この作品をシェア

pagetop