雨音色
真実と現実のはざまで。
「はい、どちらさま・・・」


玄関の扉を開けると、真新しい記憶に残っている女性の姿が、そこに立っていた。


「・・・よくここがお分かりで」


彼は穏やかに言った。


「少しばかし、時間を頂けますでしょうか」


彼は玄関方から外に出て、戸を閉めた。


ガラガラ、という音が大きく響く。


彼女は彼を前にして、何かを躊躇っている様だった。


何も聞こえない。


ただ、いつの頃からか歌い始めた鈴虫の歌声を除いては。
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