幸せという病気
父親は殺人罪でその日のうちに逮捕、母親はそのまま病院へ搬送されたが脳への衝撃が大きく、半月ばかりが過ぎた頃、病院で息を引き取った。

遥はその時のショックで口がきけなくなり、二年の治療と香樹の世話をすることで、奇跡的にようやくまともに明るく人と喋る事が出来るようになったが、男性に対しての恐怖からは未だ抜け出せずにいた――。



そんな事を思い出し、武が河原で時間を忘れていると香樹から電話が鳴った。


「もしもし?あっ香樹か?」
 
「お兄ちゃん!先生がうち来たよ!?」


香樹が無邪気に電話口で答える。


「あぁっ!ごめんな!?すぐ行くから!遥!お前が変な事言うから!」

「私のせいじゃないじゃん!もとはといえば、お兄ちゃんがこんな所で寝てるから!」



今度は揃って香樹の家庭訪問を忘れていた・・・。


武は走って家に帰る途中、父親の事を思っていた。


武が小学一年の家庭訪問、父親は選挙の真っ最中で母親さえも家にいなかった。



そして仕事づけで何も語らない、何も教えてくれない父親だった。




それでも一つだけ。



一つだけ真剣に武に向けてくれた言葉。









『俺を超えてみろ―――』









遥と二人、川沿いを走りながら、その言葉だけがグルグルと武の頭の中を駈けずり回っていた。





そしてようやく武達が家に着くと、一人の女性が玄関先で待っていた。




『相川 すみれ』





香樹達一年生の担任である。

武はお詫びをし、家の中へと案内した。

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