幸せという病気
「遥ちゃん、優は?」

「今、検査してる・・・頭を強く打ってて・・・倒れて運ばれたんだけど、意識は戻ったみたい・・・」

「そう・・・で、遥ちゃんは大丈夫?」

「ちょっと怪我したけど平気」


遥は、動揺を隠した顔で微笑んだ。


「ひどかったな・・・遥ちゃん、疲れもあるだろうし、ここは俺がいるから帰って休みなよ」

「でも・・・」

「優は大丈夫だから」


遥は戸惑いながらも、その言葉に甘えて病院を出た。

そして突き刺す雨はすでに小雨に変わり、騒ぎと静けさが同時に街に入り混じり、どんよりとしている・・・。




商店街。



果物、野菜・・・ほとんどの物が外に放り出され、遥はそれを見ながら、とぼとぼ雨の中を歩いていると、一匹の傷ついた犬を見つけた。


その犬はぐったり横たわってはいるが、かろうじて息はしている。


遥は、その可愛らしい眼差しを見ると堪らなくなり、傘を置いて犬を抱き締めた。





「ごめんね・・・私もいっぱいいっぱいなんだ・・・」





そしてどうする事も出来ず、ただ抱き締めていると、落ちてきたと思われる店の看板の下に誰かがいる事に気が付く・・・。







「え・・・誰か・・・いるの?」






「・・・イテテ・・・」







「ちょっと・・・大丈夫ですかっ!?」









そこには、二十歳程の男が怪我をしながら看板の下敷きになっていた。


遥は重い看板を必死で動かす。


男はかなりの怪我をしていた。






「大丈夫ですか!?・・・血が・・・」














遥と、『木下 竜司』の出逢いだった。












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