幸せという病気
「血なんて大した事ないけど・・・その犬、生きてる?」


横になったまま竜司は遥に質問する。


「うん・・・この子も怪我してるけど・・・」


すると、竜司はボロボロの服を脱いで犬の傷口を塞いだ。


「あなたも怪我してるじゃん・・・病院行こ?」


遥が心配そうに尋ねると、苦しそうな顔で竜司が聞き返す。


「・・・あんた名前なんていうの?」


「伊崎 遥だけど・・・そんな事より病院へ行かな・・・」


遥の声にかぶせて、竜司は話し出した。


「遥ちゃん・・・俺は大丈夫だから・・・そいつを運んでやってくれ・・・」


竜司がそう言うと遥は戸惑った顔をする。


「でも・・・」


「いいから・・・こんなになってまで助けたんだから、このまま死なせちまったら意味がない・・・」





竜司は傷ついた犬を、落ちてくる看板から守っていた。




苦しそうに竜司が続ける。


「あっ、ねぇ・・・なんか書くもん持ってない?」

「え?」


遥はノートとボールペンを鞄から出し、紙が濡れないように傘をさした。

すると竜司はノートに簡単な地図と病院名を書き、遥に手渡す。


「ここ・・・俺が働いてる動物病院だから、そいつ運んでくれ・・・頼む・・・」


必死に訴える竜司を見て遥は意を決し、まず傷ついた犬を言われた通りに病院へ運ぶ事にした。


「すぐ戻るからしっかりねっ!!」

「・・・一応、救急車呼んでくれればいいのにな・・・」


走り去っていく遥を見て、竜司はそう思いながら少し安心した顔つきで空を見上げる。

そして遥はすぐに、子犬をノートに書かれた病院へ運び、やがて竜司のもとへ戻ると、竜司はすでに気を失っていた。

そのまま遥は急いで救急車を呼び、病院へと付き添う。

やがて病院に着き、竜司が手当てをされている間、遥は待合室で熱いお茶を飲みながら、雨で冷えた体を温める事にした。

すると、通路の向こうから武の声が聞こえる。


「あれ?遥!?」

「あっお兄ちゃん!」

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