幸せという病気
そして、熱のせいか少しぼーっとしながら、弱った声で遥が祖母の名前を呼ぶ。

タオルを冷たい水で絞りながら祖母が優しく返事をすると、遥が問いかけた。


「お父さんとお母さんはどうやって知り合ったの?」

「ふふふ・・・どうしたんだい?急に」

「お互い、好き同士だったんだよね?」

「うん。そうだと思うよ?」


祖母は笑顔で答える。


「そうだと思うって・・・二人はどんな恋愛だったのかなぁ」

「ん~。どーも、お母さんが先に好きになったみたいだよ?」

「へぇ~そうなんだぁ」


祖母が遥の額に冷たいタオルを乗せると、遥はドキドキした気持ちが少しだけ落ち着いた。

そして祖母はそんな遥から何かを感じたのか、遥の顔を見ながらゆったりとした口調で語り出す。


「遥・・・悩んだり、悲しんだり、喜んだり、恋をしたり・・・人間が唯一コントロールできないモノは『気持ち』なんだよ・・・無理に自分でコントロールしようとしても駄目。『気持ち』は悩み、悲しみ、喜び、恋をしたりしながら成長していってる。あんたのお母さんもそうだった。お父さんに恋をしてあんた達が知ってる優しい女性に成長していったんだよ。『心』の成長は、遥・・・あんたの成長なんだから・・・風邪こじらせちゃったんなら、今日は何も考えないでゆっくり寝なさい・・・」




やがて遥は祖母の言葉に頷き、そのまま落ち着いた顔で眠りにつく。

いつも傍で見守っていた祖母はわかっていた。

遥が男性に対して臆病になっている事、前に進めなくなっている事。








そして今、心が揺れている事を・・・。


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