あたし、脱ぎます!《完》



自由席の車両は
席が疎らに
埋まっているだけで、

雄介は
2人分の席を
しっかり確保していた。


脇には
大きなボストンバッグと
ギターがある。



席に腰を下ろし、
「ね?何でいるの?」と

再び尋ねると、

「はいはい。
これでも飲んで」と

缶コーヒーを差し出された。


雄介は
缶コーヒーを一口飲むと、

「はぁ」と
息を漏らした。



「実は俺、今日はオーディションなんだ」



「え?!オーディション?!」



確かに
いつもの顔とは違い、

どことなく
緊張した表情をしている。



「さっき、
電車に乗るとき、
萌香の姿を見つけたから、

指定席まで探しに行ったんだ」



「そっかぁ。
だからギターあるんだね」



「俺は日帰りだけど、

萌香は泊まりなんだろう?」



「うん。
今日も明日も撮影があるし、

来週は
DVDの発売イベントもあるから、

その打ち合わせの関係で、

帰りは
来週の月曜日になるんだ。

だから
学校も休む予定なの」



「そうか。
お前は忙しいな。

何だか俺も負けられないな」



雄介は
持っている缶コーヒーのプラグを
指で弾きながら呟いた。

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