秘密の花園

「化粧が取れるから擦るなよ」


佐田さんがやや強引に手を引いて、私の頭を己の胸に押し当てる。


逞しい腕にぎゅうっと抑えつけられて、息が苦しくなった。


初めて抱き寄せられた胸は思いのほか、広くてちょっと戸惑う。


私は垂れ流しの涙を隠すように佐田さんに額をこすりつけた。


シャツが少し汗ばんでいる。魔王も汗をかく。余計な知識が一つ増えた。


「うわ――――ん!!」


水瀬さんの前では泣くまいと、我慢していたから余計に止まらなかった。


最後に子供のように声を上げて泣いたのはいつだったろうか。


佐田さんは怒りもせず、私が泣き止むまでずっと胸を貸してくれた。


背中を撫でる奴の手が、あまりにも優しかったから。


私はなんだか安心してしまって、素直に泣くことが出来たなんて。


……悔しいから絶対に言ってやらない。


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