【短編】プロポーズはバスタブで。
だったら───・・。
あたしの最後のワガママ。
あんな表情の孝明はもう見ていられないから・・・・フラれる前にあたしのほうから“別れましょう”って、そう言うんだ。
ううん、言わなきゃダメだ。
大人の女っぽく潔く・・・・本当は未練タラタラだけど、これは内緒。
ちゃぷん、ちゃぷん。
バスタブに体を沈める。
それから1つ、2つ、ゆっくりと息をして、孝明とつき合ってきた5年間の思い出を整理していく。
お互いに一目惚れだったこと、楽しそうに語ってくれた高校球児の頃の話、クリスマスイブの告白。
初めてキスをしたときのこと、初めて体を重ねたときのこと。
沙織たちと行った旅行、今までに観てきた映画、ペットショップに行くたびに“飼いたいね”って言っていた犬の話。
ケンカした数、それと同じ回数の仲直りをした数・・・・。
「孝明ぃ〜・・・・グスッ」
この5年間は全てが孝明だった。
たくさんの思い出をくれた孝明のことはそう簡単には忘れられそうにないけど、でも。
だからこそ、孝明のために・・・・。