奥に眠る物語
「離して、ください。私、行かなきゃ・・」

「何でだよ、なんで・・・!!!」

叫ぶようにそう言われ、体が強張る。

怖い。恐い。こんなの、いつものオーナーじゃないよ

無理やり腕を振りほどこうにも、余計に力をこめられてしまうのでほどくことが出来ない。

どうしようもできなくて、目の前がグニャっとゆがむ。

それが涙と分かるのに数秒掛かってしまった。

「やだ、助けて・・ 憑雲ぉ・・・!!!」

涙が一筋流れ、首元のネックレスに落ちる。

「?!! ぐぅっ!!!」

いきなり、オーナーの腕の力が抜けた。

私は突然のことに、体が追いつかずその場に座り込んでしまった。

「これ以上、朱音を傷つけるのはやめてもらおうか」

「、!! お前、やっぱり・・」

オーナーが真っ青な顔をしながら見つめる先にいたのは





彼だった。




私は彼の冷ややかな視線に背筋が凍りついた。

ただ、静かに怒りがこめられたその目にはオーナー以外映っていない。

「・・朱音はお前の遊び道具なんかじゃない。 生半可な気持ちでそういうことするのは人間としてどうかと思うけど。 感情くらい抑えるように出来ないと、大人なんて名乗れないよ」

「う、うるせぇ!! 人の真似事してるお前に何が分かる!?」

オーナーがカウンターの椅子を蹴り飛ばして、息を肩でしながらそう叫ぶ。

彼は涼しそうな顔で口を開いた。

「真似事、ねぇ。 確かにそうだね でもそれはあんたにも朱音にも言える。 みんな真似事しながら生きてるからね」


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