ますかれーど
後ろで静かに閉まった私の部屋のドア。

腕を掴んでいた彼の手は、いつの間にか私の手と絡んでいた。



「ねぇ‥」



穏やかに、どこか悲しそうに聞こえた声。



「俺ら、もう付き合ってる‥んだよね?」



いつも強い彼の紺色の瞳が、少しだけ‥揺れてる気がした。



「‥うん」



あなたのモノになるって‥私は返事をした。

だからもう、



「彼氏と彼女‥だよね?」



私は、ニッコリと笑ってみせた。すると‥



「俺のこと、好き?」



捨てられた子犬みたいに、上目で私を見る彼。ちょっと、可愛いと思った。でも‥



「ーー‥わからない。誰かを好きになったこと、ないもん」



そう伝えると、彼は顔を下に向けて、繋いだ手にぎゅっと力を入れた。

なんか、悪いこと言っちゃったかな?

そうだよね。
普通‥あ、普通ってのもよくわからないけど、好きになってから付き合うもんなんだよね!?



「あ、あのねっ?」



下を向いたままの彼に、だんだんと焦りを感じ始める私。



「これから、知っていく。これから、だんだん好きになるからっ」



顔を上げない彼に、なんとなく必死になるわけでーー‥



「ーー‥ぷっ」



え?



「あっはははははははははははーー‥」



え?えっ?

ハテナマークを浮かべた私の頭は、この状況変化について行けない。



「ーーあっはーはーはー‥」



やっと笑いが収まった彼は、その細い指先で目尻を拭う。

何が泣くほど楽しかったんだろ?



「あ、ごめんごめん。嬉しかったんだよ」

「え?」

「つまり、俺が全部 初めてってコトでしょ?」



あ、えと‥



「これから、だんだん好きになってくれれば良いから」



くしゃっと可愛く笑う彼に、私のお腹の奥はきゅんって反応して、ちょっと苦しかった。



「好きになるのも初めて?」

「うん」

「キスは?」

「え‥と、あれが初めて」



そう。彼と初めて出逢った、あの時が初めて‥デス。



「ふーん‥」



さっきまで可愛く笑っていたその顔は、ふっと見た瞬間‥



「そうなんだ」



ニヤリと片方の口角を上げて、意地悪な微笑を浮かべる彼。

紺色の綺麗な瞳は、妖艶な輝きを放っていた。

私の部屋に2人きり。
後ろはベッド。


ーーー‥え゙?
< 53 / 207 >

この作品をシェア

pagetop