坂井家の事情
翌朝は雲一つない真っ青な空が、見渡す限り広がっていた。5月の日差しも暖かく、風は初夏の香りを運んでいる。

散策気分を味わいながら登校したいほどに気持ちの良い朝だった。しかし今の悠太にそんな余裕はない。

遅刻しそうなのだ。

家から学校までは歩いて10分程度の道程なのだが、弟妹を保育園へ送り届けなければならなかった。

その上、律が出掛けに穿いていく靴下の色が気に入らないと駄々をこねはじめ、家を出るのが遅くなってしまったのだ。

悠太は息を切らせて教室へ駆け込んでいた。

中を見渡すとクラスメイトたちが各々、自由に過ごしている。予鈴は昇降口に入った辺りで鳴っていたが、担任はまだ来ていないようだった。
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