坂井家の事情
しかし悠太からすれば、それがとても不公平なことのようにも思われた。

本当なら自分もあの細い腕の中に包まれ、抱き締められてみたい。彼女の温もりに触れてみたい。

悠太が見詰めていると、不意に遥香と目が合った。包み込まれるような温かい眼差しが、真っ直ぐにこちらへと向けられている。

(うわっ俺、今何考えて……)

目が合った瞬間、我に返る。遥香に自分の気持ちを全て見透かされているようで、急に恥ずかしくなった。

「くぉうら響、いつまでもここに居たら遥香先生に迷惑掛けるだろうが」

誤魔化すかのように慌てて響の襟首を掴むと、無理やり引き剥がす。

本当はいつものように鉄拳もお見舞いしたいところだったが、嘘泣きをされたら困るので止めたのだ。

弟を殴ることで、遥香に軽蔑をされたくはなかった。

「何だよ、俺ばっかり! 律も一緒じゃん」

「るせー、口答えするな。お前は特に生意気なんだよ」

腕の中で暴れる響を、悠太は必死に押さえ付ける。


が。


次の瞬間には、声にならない悲鳴を上げながら地面へ蹲っていた。
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