劇場
この街は眠らない。
朝の人間、昼の人間、夜の人間がいる。

今夜も繁華街は、賑わいを見せていた。

私は昼夜問わず、この街を歩きまわる。
ただ歩き回るだけだが、この街の人間を観察するのはとても楽しい。

私は一通り街を歩きまわると、ガードレールに座り人を観察する。
ほぼ日課になっていた。

今日もここで、どんな役者がどんな劇を見せてくれるのか。心は躍った。



しばらく眺めているとあたりがざわつき始めた。

どうやら、今夜も役者が揃いはじめたようだ。


今風な一人の若者が、二人の人と口論しているようにみえる。二人のうち一人は、ガタイがよく黒いスーツを着ている。
もう一人は、一見人が良さそうにみえる風貌だ。

残念ながら、私の席は特等席ではなかったようで声は聞こえない。

そのうち、ガタイのいい方が若者に殴りかかった。
若者は一発で地べたに倒れたが、ガタイのいい男はそこに更に蹴りをいれている。


普段ならここで、この劇にも幕が下りる。

しかし、今日は違った。

サラリーマン風な男がガタイのいい男を止めに入った。

この街では、他人の事情に首を突っ込まず生きる事が賢い生き方だ。

あのサラリーマンは賢くない。

そう思った矢先にサラリーマン風な男も、ガタイのいい男に殴られた。
一発で地べたに倒れ、そのまま動かなくなった。


すると二人の男が喋り、良い人そうに見えた風貌の男がどこかに電話をかけた。

数分すると、黒めのワゴンカーが男たちの前に現れ、ガタイのいい男が先ほどの若者とサラリーマンを車に乗せた。

そして、人が良さそうな風貌の男とガタイのいい男も車に乗り去ってしまった。


車が去ると同時に野次馬も去っていく。

こうして、今日の劇に幕が下りた。

私も劇場をあとにした。
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