迷姫−戦国時代
あの戦で私は多くのものを失ってしまった




地位、民、不利だと分かっていたのにも関わらず共に立ち向かってくれた家臣。そして





父上、兄様









私の・・・私の大切な方達をこの男は









奪った











激しい感情を抑えるように私は相手の姿を視界から外した

しかし楠木は美羽の行動を気にもせずに、美羽の正面へと座り込んだ




正面に座る楠木から激しい威圧感がピリピリと肌を刺す








「名を申せ」


それはどこまでも深く、重みのある声音は人に恐怖を与える程である。

しかし美羽はそうではなかった


「それは、命短し者の名を聞くだけ損ではありませんか」



明らかに楠木に対して示すそれは恐怖ではなく敵意である



「フッ、そうだ。なら何故その程度で拒む」


「拒む理由は簡単です。貴方に名前を呼ばれたくないからです」




楠木は目の前にいる美羽に向けて激しい刃の様な目を向けた


「(生意気な娘だ。この娘を見てるとまるであの憎たらしい若造を思い出す)」





ーーー「そういえばあんた、感情に左右して口調が変わるよな。依然聞いたんだが人の嘘は呼吸、瞼の他にも脈を測れば分かるってな。あんたの場合は・・・









今の面が 面の顔 だろ?」






フッ・・・。思い出すだけで腹が立つ。生意気な五加木の若造め。さて、今の儂の顔は勿論・・・




裏の顔だ







「実に素直な娘だ。名以外に直に嫌でも答えさせる事は山程ある。それを待つとしよう・・・」



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