迷姫−戦国時代
楠木はあの後から美羽に身の回りを担当する女中を付けると共にまた来るとだけ言い残し部屋を後にしたのだった





楠木が出ていくのと入れ替えに女中のまつと名乗る二十代前半だと見られる小柄な女性が入ってきた



「この度は重綱様に世話役を頼まれましたまつです。お名前を・・・」

「美羽よ」

「では美羽様と。風呂の用意が出来てますがどうなさいますか」

楠木が出ていった後、美羽は気づかぬうちに汗をかいていた事に気づき、障子の前で正座をするまつの方へ向いた


「そうね、入るわ」




























ーーーチャポン


敷居で囲まれた風呂場に美羽はようやく安心感を感じた



壁際からまつの湯加減の調子はどうかと声を掛けられたので丁度よいとだけ答えた






水面に浮かぶ己の手を見つめ、静かに両手で顔を覆った



楠木の行動が全く読めない。あの男は私をどうするつもりなのかしら

あの男の目は・・・まるでいつまでも若さを失わない、ギラギラした獅子の目であった







いつまでも脳裏に残るあの男を消し去るように湯槽に身を浸かった















美羽が風呂に入ってる間に裏で手を回している者がいるのを、その頃美羽は知りもしない

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