狂愛ゴング
べ、別に悪いこと言ってないし。当たり前のこと言っただけだし。若干調子に乗りすぎた感がありますけども。

いや、いやいや! もし万が一悪いこと言ってたとしても、私が新庄にされたことよりもよっぽどマシよ!


「……なあ」


低い新庄の声に呼ばれて、少しぎくりとしながらも出来るだけ平常心を装ってめんどくさそうに振り向いた。

内心は言い逃げしたいんですけどね。

お弁当抱えて新庄の顔も見ずに猛ダッシュしてしまいたいんだけどね。

……でもさすがにこの男にそれをするのは悔しすぎる。


絶対後でバカにするに違いない。いつものあの根性の悪い顔で私を笑いものにしようをするだろう。

戦闘準備を整えて、振り返ったその先には、新庄の顔。

私の視界いっぱいに新庄が映る。そう、新庄だけ。
まわりにあった木々も、草も私の視界には入らないほど、近い。


「——……え?」


声を出したのと、口を塞がれたのは、おそらく、同時。
唇に触れる、生暖かく、そして柔らかい感触。


……——なにが?


そう思った瞬間にぞわぞわぞわっと体に鳥肌が立った。


……なにが?
……なんだこれ?
……もしかして?


そして、ふっと唇からぬくもりが離れて行く。

体が1㎜もうごかない。

新庄が私を見つめながら、体を、顔を、私から離していく。
そして、私がなにも言えず目を丸くしているのを見て……。



勝ち誇った様に、バカにした様に……、笑った。
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