胡蝶蘭

イツワリ ノ デート








朝、ケータイの着信音で起こされた。



しばらく無視していたが、結局手探りでケータイを探す。



枕に埋まりかけていたそれを掴み出して目を細めて液晶を見ると、誓耶だった。



…こんな時間になんだ。



内心毒づいて時計を見るが、もう既に11時だった。



文句を言える時間ではない。



「…なんだ。」



寝起きの声が、思いのほか掠れていた。



「おい、どうした?」



中々、声が聞こえてこないので不審に思って声をかけると、次の瞬間、誓耶の叫び声が鼓膜を揺さぶった。



慌てて飛び起きて耳から離す。



「馬鹿野郎!
うるせぇぞ!」



怒鳴るも、どうやら誓耶はパニック状態らしく、聞いちゃいない。



「なんだよ、落ち着け。」



俺はこんなに優しい奴だったか、とげんなりする。



以前ならなんの迷いもなく電源を切っていただろう。



今や、優しい保育士さんの気分だ。



「おい、誓耶。
順序をおって話せ。」


『慎吾!』


「あん?
慎吾が?」


『バレる!』


「何が?」



まるで連想ゲームだな、と笑う。



が、次の瞬間、偉槻の頭は冴えた。



『匡!』



誓耶が、そう叫んだ。



…匡?



「何があった。」


『慎吾んとこ、行くって言う。』


「なんで?」



いったんそれは収まったはずだろ。



なんで今さら…。



『あたしが昨日抜け出したのバレた。』


「馬ッ鹿…。」




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