胡蝶蘭
イツワリ ノ デート
*
朝、ケータイの着信音で起こされた。
しばらく無視していたが、結局手探りでケータイを探す。
枕に埋まりかけていたそれを掴み出して目を細めて液晶を見ると、誓耶だった。
…こんな時間になんだ。
内心毒づいて時計を見るが、もう既に11時だった。
文句を言える時間ではない。
「…なんだ。」
寝起きの声が、思いのほか掠れていた。
「おい、どうした?」
中々、声が聞こえてこないので不審に思って声をかけると、次の瞬間、誓耶の叫び声が鼓膜を揺さぶった。
慌てて飛び起きて耳から離す。
「馬鹿野郎!
うるせぇぞ!」
怒鳴るも、どうやら誓耶はパニック状態らしく、聞いちゃいない。
「なんだよ、落ち着け。」
俺はこんなに優しい奴だったか、とげんなりする。
以前ならなんの迷いもなく電源を切っていただろう。
今や、優しい保育士さんの気分だ。
「おい、誓耶。
順序をおって話せ。」
『慎吾!』
「あん?
慎吾が?」
『バレる!』
「何が?」
まるで連想ゲームだな、と笑う。
が、次の瞬間、偉槻の頭は冴えた。
『匡!』
誓耶が、そう叫んだ。
…匡?
「何があった。」
『慎吾んとこ、行くって言う。』
「なんで?」
いったんそれは収まったはずだろ。
なんで今さら…。
『あたしが昨日抜け出したのバレた。』
「馬ッ鹿…。」