胡蝶蘭
なんでもっと手際よく抜け出してこないんだ。



あ、無理なのか。



一緒に住んでるんだ。



一瞬わけのわからないことを思い、偉槻は軽く眉間を揉んだ。



「で、俺にどうしろって?」


『これみよがしにあたしに会って!』


「俺に身代わりになれと?」


『だって、それのためにこんなことしてるんだろ。
あたしがあんたに付きまとってる女にも同じことするって条件で。』



そうだった。



すっかり二人の間の契約を忘れていた。



『偉槻?』



一瞬、ぼんやりと考え込んでしまい、誓耶の声に我に返った。



「ああ、わかった。
で、いつ?」


『今は無理?』



遠慮がちに誓耶はそう切り出す。



そうくると思った、と偉槻はため息を吐き出した。



「はいはい。
準備できたらどこ行けばいい?」


『駅前は?』


「了解。
お前、くれぐれも慎吾には家にいるように言っとけよ?」


『大丈夫、あいつ今風邪で寝込んでるから。』



なるほど。



ちょうどいい時期だったんだな。



しかし、あいつも風邪引くんだ…。



慎吾に失礼なことを思いつつ、偉槻は電話を切った。



ったく、世話の焼ける。



そうは言いながらも、実はどこか高揚した気分の偉槻だった。






















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