胡蝶蘭
駅に着くと、既に誓耶は待っていた。
「悪い。」
そんなに時間を食ったつもりはなかったんだが。
速足で近寄ると、気付いた誓耶も歩いてきた。
「匡は?」
小声で尋ねると、誓耶は視線で示した。
…怖ぇ。
ついてきてやがる。
「なんか、俺なら耐えらんねぇな。」
「あたしだって、無理。」
気持ち悪、と誓耶は身震いした。
「で、どこ行く?」
駅周辺にはそれなりに時間を潰すところがある。
誓耶もそのつもりでここに呼び出したはずだった。
「あったかいとこ。」
マフラーに赤い鼻を埋め、誓耶は身体を縮める。
「じゃ、一番手近なあれで。」
偉槻は大型ショッピングモールを指さした。
誓耶も異論はないらしく、頷く。
そうと決まれば…
「さっさと行くぞ。」
どうやら病弱らしい誓耶をこれ以上こんな寒いところに置いておいたら、絶対に風邪をひく。