胡蝶蘭
夕方。
制服から着替えて店に向かった。
開店してすぐなせいか、まだ人は少ない。
それをいいことに誓耶は厨房に顔を覗かせた。
「こんにちは~。」
聞きなれない女の声に、店長が不思議そうに顔を上げる。
誓耶を認めた瞬間、その顔は笑んだ。
「おぅ、偉槻から聞いてるぞ。
カウンターにでも座っとけ。」
「はーい。」
一番厨房に近い席に腰かける。
店長はすぐに前へ出てきた。
「久し振りだな、嬢ちゃん。」
「へへへっ。
覚えててくれたんだな。」
「そりゃあ、あんなに印象深かったんだ。
忘れる方が難しい。」
確かに。
あんな派手に迷惑かけといて、言うことじゃない。
「偉槻はもうすぐ来るはずだ。」
「ここにいるんじゃないの?」
「今日は朝から運送だ。
人手不足らしい。」
偉槻もご苦労なこった、と店長は唇を尖らせる。