胡蝶蘭
トラウマ
*
一晩偉槻の家に泊めてもらった後、誓耶は自分の家に戻った。
足が鉛のように重かったのを覚えている。
元気のない誓耶に気付いた叔母は、学校を休ませてくれた。
仲が良くないにも関わらず、彼女は誓耶の世話をしてくれる唯一の人だった。
ベッドに横になりながら、誓耶は偉槻のことばかり考えていた。
そうでなけでば、また悪夢を見てしまいそうで。
ケータイを握りしめ、意味もなく眺めていた。
と、コンコンとドアがノックされた。
「はい?」
なんだろう。
まだ昼の時間には早い。
入ってきた叔母さんの手には、手紙が握られていた。
「これ、貴方宛てに。」
「あたしに?
塾かなんかの勧誘?」
何気なく訊くと、彼女は気味悪そうに頭を振った。
「なんか、違うみたいなのよ。
ほら、差出人が…。」
言われてひっくり返すと、差出人は…
“あんたを世界で一番嫌っている者より”
ぞっとした。
茉理子に違いない。