胡蝶蘭
叔母を見上げると、心配そうに訊いてきた。



「貴方、何かあったの?」


「…ううん。」


「そう、ならいいんだけど。」



冗談の過ぎた悪戯かしらね、と叔母は肩をすくめた。



…そう、冗談の過ぎすぎた悪戯だよ。



勿論、この間あったことは叔母には話していない。



叔父や匡は一晩外泊をしたわけを話せと激昂していたけれど、誓耶は頑として口を利かなかった。



叔母はだけは、問うような視線だけを寄越していた。



誓耶にとって、一番関わるのが苦痛ではないのが彼女なのだが、自分の身に降りかかったことを話せるほど信用はしていない。



「ありがと。」


「またお昼出来たら呼ぶから、それまで寝てなさいね。」



最後に彼女は優しく微笑みかけて出ていった。



…なんだか不思議な気分になった。



誓耶が拒否して家族を受け付けていないのに、彼女はなぜか誓耶に優しい気がする。



叔父や匡の前ではまったく誓耶に関わろうとしないのに、二人きりになるとまるで母親のように世話を焼こうとするのだ。



昔は優しい女を演じているのだろうとひねくれていたが、どうもおかしい。



なにか裏がありそう…。



とまたしても勘ぐってしまい、慌てて頭から掻き消した。



それよりも、この手紙…。



なんだろう。



絶対にこの間の男とのことが書いてあるに違いない。



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