胡蝶蘭
「でもお前、あれからまだ家帰ってないだろ。
服一緒。」



「あ、うん。」


「…昨日、どこ泊まった?」



慎吾の声が一段と低くなった。



「え?」


「言えよ。
昨日、どこ泊まった?」


「別に…。」



顔を反らすと、ガッと腕を掴まれて引きずられた。



「いやだ、何!?」


「騒ぐな。」



慎吾はそのまま部屋の中に入る。



鍵とチェーンを掛けると、慎吾は部屋の奥に誓耶を引きずった。



荒っぽく誓耶をソファに投げる。



足元のおぼつかない誓耶は遠心力に従ってソファに突っ伏した。



「やめろよ!」


「黙れ、馬鹿野郎!
俺がどんだけ心配したと思ってんだ!
連絡ひとつ寄こさないし、身体からは煙草の臭いしてるし!
男んとこ転がり込んだのかよ。」


「違う!
ケータイの持ち主が泊めてくれた!」


「結局泊まったんじゃねーか!
身体でも売ったか?」



言ってから、慎吾は口を塞いだ。



でももう遅い。



聞いてしまった。



…なんでそんなこと言うんだ。



あたしのこと、そんな風に思ってたのかよ。



慎吾は自分のことわかってくれてると思ってた。



でも、一番聞きたくない、言われたくない言葉が投げつけられた。



もう、嫌だ…。



「誓耶、悪い…。」



寄ってきた腕を振り払う。



やめろ…もう、嫌だ。



「カッとなっただけだ、わかるだろ?」



わかりたくない。



どうして、言ってから後悔する?



そんなことなら、言うんじゃねーよ。




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