胡蝶蘭



どれくらい眠ったかわからない。



ただ、カーテンから除く景色が暗くなっているのがわかった。



「起きた?」



身体を起こすと、何かが落ちた。



「冷えピタ。
お前、なんで熱あるって最初に言わねーの。
気付いたとき焦ったよ。」


「ゴメン。」



慎吾が優しく微笑んで近づいてきた。



「気分は?
もう落ち着いた?」


「うん、まあ。」



ぴろん、とそれを摘まんで、ゴミ箱に放る。



距離感をもうとっくに掴みとっている誓耶の投球は、見事にゴミ箱ははまった。



「お見事。」



さて、と慎吾が手を叩く。



「夕飯、食うだろ?」


「ううん、いい。」


「食え。
お前、身体弱ってるときに無理してでも食っとかないと体力つかないぞ。」



慎吾は有無を言わさず、誓耶の前におかゆを運んだ。



じゃあ、訊く意味がないじゃないかと苦笑する。



ご丁寧にスプーンも用意してくれた。



「まったく、チンピラのくせに、あたしより料理上手いんだから。」


「チンピラのくせにってなんだよ。
前から言ってるけど、俺はチンピラじゃないの。」


「あんたはそう思ってても、世間はそうは思わねーよ。」



さっさと食えと言い残して、慎吾は風呂場に消えた。



食ってなかったら俺が食わすという脅しを残して。



誓耶は苦笑して、一口ほおばった。



うん、相変わらず旨い。



最初は食欲がなかったが、そそられる。



自然と手が動いて、完食した。



「うん、満足。」



でも、と誓耶は手をいじる。



イツキの店の店長の天むすも旨かったな。



あの味は、まだ舌に残っている。



ふふっと笑うと、誓耶は帰り支度を始めた。



そこらへんにあったチラシの裏に、帰るとだけ書き置いた。



慎吾が出てこないうちにと、誓耶は急いで慎吾のアパートを出た。


















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