胡蝶蘭
ツウジョウ ノ ヒビ
*
案の定、店に出勤すると店長から声がかかった。
「おう、偉槻。
嬢ちゃんはどうなった?」
「帰りました。」
「そうか。
様子はどうだった?」
「さぁ。」
「何だよ機嫌悪りぃな。」
口を尖らせて厨房に引っ込んだ店長と入れ替わりに、田中が偉槻に絡みついてくる。
「なぁなぁ、あのあと彼女どうなった?
抱いた?」
思い切り力任せに頭を殴りつける。
そんなわけないだろ。
殴るだけ殴って、偉槻は答えずにその場を離れた。
面倒くさい。
なんならあの時、田中に面倒を押し付けておけばよかった。
従兄の始末をどうするかが見ものだったのに。
まだ出勤時間よりも早いので、偉槻は比較的ゆっくりと着替えを始めた。
あのあと、あいつはどうなったんだろう。
それが気になって仕方ない。
行くあてがあるらしいことを口走っていたが…。
まぁ、俺の知った事ではない。
パタンとロッカーを閉じると、偉槻は厨房へと向かった。