胡蝶蘭
「おい、大神。」



あん、と振り返ると、声の主、涼宮が顔を歪めた。



「なんだよ、怖い顔すんなよ。
もうそろそろ休憩終われよ。」


「ああ、わかってる。」



適当な返事を返して手を上げた偉槻に、涼宮は不満そうな声を上げる。



「ホントにわかってんのかぁ?」


「わかってるって。
それよりお前、チャキチャキ働かないと社長に怒られんぞ。」


「う…。
わかってるよ。」



白い息を残して、涼宮が立ち去る。



白い軍手で頭を掻くのが見えた。



新しく入ったらしい彼__涼宮慎吾とは、最近知り合った。



なんでも高校中退らしく、最近まで無職状態だったらしい。



今までもポツポツとバイトをして生活費を稼いでいたとか。



が、この間揉め事を起こしてクビになったらしい。



それで、学歴を問うことのないここの社長に拾われた。



弱音を吐く暇もないくらい仕事を叩きこまれ、今ではすっかり見違えた。



と言っても、偉槻はよく知らないが。



先輩連中が言っていたのだ。



19歳だという涼宮は、短く刈った短髪にピアスと、やんちゃな名残を残している。



ここでも変なことしなけりゃいいがな。



最後にひとつ煙を吐き、偉槻はコーヒーの缶に煙草を押し込んだ。




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