胡蝶蘭
「慎吾じゃ、ない。」


「…あっそ。
まあ、いつか調べて挨拶に行くからいいや。」



そう言ったと思ったら、いきなりあの雰囲気はどこへやら、匡はジャンパーを脱いでベッドに座った。



いつものように、テレビをつける。



匡の豹変ぶりに、誓耶は誓耶は困惑しつつ、脱力した。



よかった、慎吾…。



寒いわけではないのに、身体が震えだす。



誓耶は片手で震える手を抑えた。



「部屋、戻っていいよ。」



匡は階下の音に耳を澄まし、言った。



「そろそろ母さんが夕飯に呼びに来るだろうし。
一緒にいたら変に思われるからね。」



実際だいぶ変なことをしているのに、まるで冗談を言ったかのように、匡は失笑する。



ムッとしたが、部屋に帰れるのはうれしいことなので、素直に立ち上がった。



「バイバイ、あんまり変な真似したら、怒るからね。」



最後に匡はしっかり釘を刺す。



誓耶は返事の代わりに、思い切りドアを閉めた。














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