胡蝶蘭
それを申し訳なく思いながら、誓耶は頭を下げた。



「頼む、あたしの彼氏のふりしてくれ!」



たっぷり時間をおいてから、イツキは冷静に切り返した。



「お前、気でも狂ったか?」


「狂ってない。
真剣に言ってんだ。」


「なんで俺だ?」


「なんでって…。」



思い当たるのが、あんたしかいなかったからだよ。



学校の同級生なんか頼れない。



この間の、毅然とした態度と度胸を見込んで、ここへ来た。



「別に俺はお前に好かれるようなことをした覚えはないんだがな。」


「悪いけど、惚れたわけじゃない。」



じゃあなんなんだと言いたげに、イツキは誓耶を見下ろした。



「友達が、匡に目ぇつけられた。
彼氏じゃないかって言うんだ。
だから、彼氏のふりしてくれ。」


「お前、自分の言ってることよく考えてから、もう一回いってみろ。」




誓耶がすぐさま繰り返すと、イツキは苛立ったように柱に手をついた。



「あのな、朝っぱらから人の家きて、何言い出すかと思えば付き合ってるふりをしろ?
この間庇ってやったばっかだろ、自分でなんとかしろ。」


「出来たらあたしは今ごろ家出てる。」


「知るか。
お前の従兄には関わるとろくなことなさそうだ。
現にお前も警告して出てったろ。」


「そうだけども。」



じゃあ、誰に頼ればいい?



お前しか思いつかなかったのに。




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