胡蝶蘭
「頼む、別にデートをしてくれって頼んでるわけじゃないんだ。
名前だけ借りれればいい。」


「他になにか俺にデメリットは?」


「ない。」



ふーん、とイツキが姿勢を変える。



「この間みたいに、犯罪者呼ばわりとか、訴えるって脅されたりとか、職奪われるとかないんだな?」



ぐさりと誓耶の心臓を抉る。



ありそうなことだ。



「ないんだな?」



大きな目が誓耶を射る。



それを避けるように、誓耶は顔を伏せた。



「あるんじゃねーか。」



呆れたように、イツキはため息を吐いた。



「でも、頼む。」


「こっちの条件飲めるか?」



唐突に、イツキは誓耶を引っ張り込んだ。



突然のことに、対応できない。



力任せに、誓耶は室内に引きずり込まれた。



抗議するように見上げると、イツキは鍵を閉めながら端的に詫びた。



「悪い。
こっちも女に付きまとわれててね。」


「なんだ、同じじゃないか。」


「明らかにお前の従兄のほうがタチ悪い。」



まあ、あいつくらいに鬱陶しい奴がいたら同情する。



誓耶が言うと、イツキは可笑しそうに小さく笑った。




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